このページの要点
- 期間は日付で書くのが基本。「締結日から○年」と書くと初日は算入されず(民法140条)、満了日が感覚とずれる。
- 自動更新は、異議の期限・方法・到達か発信か・休日の扱い・更新後の期間と条件を書く。意思表示は到達の時から効力を生じる(民法97条1項)。
- 複数の契約の期間をそろえるときは、対象契約を名称と日付で特定し、「原契約」などの定義語を一つの意味で使う。
- 期間満了後に取引が続いたときは、契約が続いているのか個別の取引なのかが分かれる。覚書で、いつからどの条件で続くのかを書いて整える。
結論:期間の覚書は「いつからいつまでか」「どう更新されるか」「元の契約とどう結びつくか」の三つを決める書面
契約期間に関する覚書は、一見すると日付を入れ替えるだけの簡単な書面に見えます。しかし、実際に読み返すと、問題が起きやすいのは日付そのものよりも、その日付が「どの契約の」「どの条項の」期間を指しているのか、期間が終わったあとにどうなるのかが書かれていない点です。契約期間は、報酬の発生期間、秘密保持や競業避止の義務が及ぶ期間、解約できる時期、自動更新の有無など、ほかの多くの条項の基準点になります。期間がずれると、その上に乗っている条項がすべてずれます。
期間に関する覚書は、目的で分けると四つの形に整理できます。終期だけを動かす延長、同じ条件で新しい期間に入る更新、複数の契約の有効期間をそろえる統一、更新の仕組みそのものを後から書き加える自動更新条項の追加です。名前は「更新覚書」「期間覚書」「延長覚書」とさまざまですが、書くべきことは共通しています。
- 期間は、始期と終期を日付で書くと争いが生じにくい。「締結日から1年間」と書く場合は、民法の期間の計算(138条から143条)に従って終期が決まることを理解しておく。
- 自動更新を置くなら、異議を出せる期限、異議の方法、期限の基準が「発信」か「到達」か、更新後の期間と条件を書く。期限の逆算は暦で数え、休日の扱いも書く。
- 複数の契約の期間をそろえるときは、対象となる契約を名称と日付で特定し、「各契約書記載の期間にかかわらず」と書いたうえで、変更しない部分は元のとおりだと確認する。
- 期間が満了した後に取引だけが続いてしまったときは、契約が続いているとみられるのか、個別の取引ごとの合意とみられるのかが分かれる。後から覚書で整えるときは、いつからどの条件で続いていたのかを書く。
このページは、期間の書き方、自動更新、期間のそろえ方、延長・更新・新契約の選び方、期間満了後の扱い、賃貸借などの特別な定めの紹介という順に説明します。契約の内容そのものを変える覚書の書き方は契約書の変更を覚書で行うときの書き方、遡って適用する書き方は日付と遡及の書き分けのページで扱います。
期間に関する覚書の四つの形
| 形 | 目的 | 書くこと | ずれが起きやすい点 |
|---|---|---|---|
| 延長 | 終期だけを後ろにずらす | 延長後の終期、延長する契約の特定、ほかの条件は元のままである旨 | 延長の合意が、別の契約の期間や自動更新の起算とずれる |
| 更新 | 同じ条件で新しい期間に入る | 新期間の始期と終期、条件を変えないこと、旧期間中の債権債務の扱い | 更新したのに、更新前の期間の条項が新期間に及ぶのかが書かれていない |
| 統一 | 複数の契約の期間をそろえる | 対象契約の一覧、統一後の始期・終期、更新の対象 | 「本契約」が何を指すのか定義がなく、統一したはずの期間の更新が一部の契約にしか及ばない |
| 自動更新の追加 | 更新の仕組みを後から置く | 異議の期限と方法、更新後の期間、更新の回数や上限 | 異議の期限が通知の発信か到達かで決まるのかが書かれていない |
期間の書き方:日付で書くのが基本。「締結日から○年」と書くときは民法の計算に従う
期間の計算には、民法138条から143条に通則があります。まず138条は、期間の計算方法は法令や裁判上の命令に特別の定めがある場合、または法律行為に別段の定めがある場合を除き、民法の規定に従う、と定めています。つまり、契約の中で期間の数え方を自由に定めれば、その定めが優先します。定めがなければ、民法の通則で数えることになります。
日、週、月、年で期間を定めたときの数え方は、140条から143条に書かれています。140条は、期間の初日は算入しないと定めます。ただし、期間が午前零時から始まるときは初日を算入します。141条は、期間はその末日の終了で満了する、と定めます。143条は、週、月、年で期間を定めたときは暦に従って数え、週、月、年の初めから期間を起算しないときは、最後の週、月、年において起算日に応当する日の前日に満了する、と定めます。ただし、月または年で期間を定めた場合に、最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に満了します。
具体的に当てはめてみます。ある年の4月1日に結んだ契約に「契約締結日から1年間」と書いたとします。初日である4月1日は算入されませんから、起算は翌日の4月2日で、期間は翌年の4月1日の終了で満了します。契約を結んだ日に取引が始まっているのに、期間の数え方は翌日からになる、という点が、感覚とずれやすいところです。反対に、「令和○年4月1日から令和△年3月31日まで」と日付で書けば、数え方の問題は生じません。終期を日付で書いておくと、あとで更新や延長の覚書を作るときも、基準点がはっきりします。
142条は、期間の末日が日曜日、祝日その他の休日に当たるときは、その日に取引をしない慣習がある場合に限り、期間は翌日に満了する、と定めます。休日だから当然に翌日に延びるのではなく、取引をしない慣習があるかどうかが条件になっている点に注意が必要です。契約書では、期限が休日に当たる場合に前の営業日とするのか、後の営業日とするのかを書いておけば、この問題を避けられます。
条文例契約期間の定め(日付で書く形)
- 本契約の有効期間は、令和○年○月○日から令和○年○月○日までとする。
- 本覚書は、前項に定める有効期間を、令和○年○月○日から令和○年○月○日までに改める。
- 前項のほか、原契約の定めは、すべて従前のとおりとする。
この例は、期間そのものを日付で指定し、変更しない部分は元の契約のとおりだと確認する骨格です。具体的な日付は、契約の実態に合わせて入れます。
書き方の例(一般的な例) 期間の書き方
期間の特定
理由「締結日から」は、初日が算入されないため、実際に取引が始まった日と数え方がずれる。日付で書くと、更新や延長の覚書の基準点も明確になる。
期限が休日のとき
理由「翌営業日」と書くと、期限を過ぎてよいという意味にも読める。異議の期限や通知の期限では、休日の扱いを前か後かで書く。
自動更新条項と異議の期限:到達主義、方法、期限の基準日を決めておく
自動更新条項は、期間が満了するときに、どちらからも更新しない旨の申出がなければ、同じ条件で一定期間延びる、という仕組みです。契約の事務を軽くするための条項ですが、更新を忘れる側にとっては、気づかないうちに契約が続く条項でもあります。そのため、書き方で決めておくべきことが多くあります。
最初に決めるのは、更新しない旨の申出の期限です。たとえば「期間満了の○か月前までに」と書くとき、その日までに相手方に届いていなければならないのか、その日までに発信していればよいのかを、明記しておきます。民法97条1項は、意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる、と定めています。契約書に別段の定めがなければ、到達した時に効力が生じるという読み方が基本になりますから、期限の直前に送る側は、到達に必要な日数を見込む必要があります。
次に、通知の方法です。書面に限るのか、電子メールでもよいのか、送る先はどこか、担当者が変わった場合の連絡先の変更はどう扱うのかを決めておきます。通知先が古いままの契約書は少なくありません。期限を過ぎてから、通知先が変わっていたために届かなかったと分かっても、取り返しがつきません。
三つ目は、更新後の期間と条件です。更新は同一の条件で行うのか、料金や仕様を見直す機会にするのか。更新のたびに同じ期間で延びるのか、更新の回数や、全体の上限期間を置くのか。料金改定を更新に連動させるなら、改定の通知期限を更新しない旨の申出の期限より前に置かないと、改定を知ってから更新を断る時間がなくなります。この順序の食い違いは、自動更新条項で見落とされやすい点です。
自動更新の時間の流れ(期間満了日から逆に考える)
図は一般的な時間の並べ方の例です。実際の期間は、契約の性質に合わせて決めます。
条文例自動更新と異議の期限(事業者間の契約の例)
- 本契約の有効期間が満了する日の○か月前までに、いずれの当事者も相手方に対して書面(電子メールを含む。)により更新しない旨を通知しなかったときは、本契約は、同一の条件で○年間更新されるものとし、以後も同様とする。
- 前項の通知は、相手方に到達した時に効力を生じる。通知の期限の日が休業日に当たるときは、その直前の営業日までに到達しなければならない。
- 当事者は、第1項の更新に際して条件を改めようとするときは、同項の通知の期限の○か月前までに、改める内容を書面により相手方に通知する。
条文例の「○か月」「○年間」は一般的な書き方の例で、数値は取引の実態に合わせて定めます。
自動更新条項を、後から覚書で書き加える場合は、さらに注意が必要です。元の契約に更新の定めがなかったのに、覚書で「異議がなければ1年間延長し、その後も同様とする」と書くと、元の契約の期間だけでなく、更新の仕組みも新たに生まれます。このとき、覚書の中の「本契約」が元の契約を指すのか、覚書そのものを指すのかが定義されていないと、更新の対象が誰にも分からなくなります。冒頭で「原契約」と定義し、更新の条では「原契約の有効期間」と書くことで、対象を固定できます。
業務委託の関係では、法律が別の予告を求める場面もあります。特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)16条は、特定業務委託事業者が、継続的業務委託に係る契約の解除(契約期間の満了後に更新しない場合を含む)をしようとする場合には、特定受託事業者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、少なくとも30日前までに予告をしなければならない、と定めています(災害その他やむを得ない事由があるなど、厚生労働省令で定める場合は除かれます)。更新しない旨を伝える期限を契約書で定めていても、この規定が別に働く場面があります。対象となる業務委託の範囲や予告の方法は、取引の内容によって異なります。
複数の契約の期間がそろっていないとき:統一の覚書の書き方
一つの取引を、基本となる契約と個別の契約に分けて結ぶことがあります。たとえば、取引の枠組みを定める契約と、個別の条件を定める契約の二つを同じ時期に結んだのに、それぞれに別の有効期間が書かれていた、という例が実務では見られます。片方が先に終了すると、もう片方は残るのに、前提となる契約がない、という状態になります。この状態を整えるのが、期間を統一する覚書です。
統一の方法は、大きく三つあります。一つ目は、すべての契約の終期を同じ日にそろえる方法です。二つ目は、基本となる契約の期間に個別の契約を従わせる方法です。三つ目は、個別の契約が基本となる契約より長い場合に、基本となる契約の終了後も、個別の契約が終わるまでは基本となる契約の条項を適用し続ける方法です。取引の実態に合わせて選びますが、どれを選ぶ場合でも、覚書の中で対象となる契約をすべて特定する必要があります。
期間をそろえる三つの方法
| 方法 | どう書くか | 向く場面 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 終期を同じ日にそろえる | 対象となる各契約の名称・日付を挙げ、有効期間を同じ始期・終期に定め直す | 契約の数が少なく、期間をそろえても取引に支障がないとき | 各契約の自動更新条項が残っていると、更新の時期が再びずれる。更新の対象も覚書に書く |
| 基本となる契約に従わせる | 個別の契約の期間は、基本となる契約の有効期間に従うと定める | 個別の契約が多数あり、一つずつ期間を書き換えたくないとき | 個別の契約に、より長い期間を前提とした定め(たとえば最低利用期間)がないかを確認する |
| 終了後の適用を延ばす | 基本となる契約の終了後も、終了前に成立した個別の契約には、その履行が完了するまで基本となる契約が適用されると定める | 個別の契約の履行期間が基本となる契約の期間を超えるとき | 適用が続く条項の範囲(秘密保持や責任の定めなど)を書かないと、どこまで適用されるかが分からない |
統一の覚書を作るときに、特に気をつけたいのは、用語の揺れです。冒頭で対象の契約を「原契約」と定義したのに、本文で「本契約」「現契約」と別の言葉で書くと、同じ契約を指しているのか、覚書そのものを指しているのかが分からなくなります。複数の契約を対象にするなら、「原契約A」「原契約B」のように個別に定義するか、「対象契約」という総称を決めて、その総称が指す契約を一覧にしておきます。定義語を初めて使う場所でその場で定義するのは、条項の数が多い文書では特に重要です。
書き方の例(一般的な例) 対象となる契約の特定
対象契約の書き方
理由どの契約の期間かが特定されていないと、統一したつもりでも、一部の契約にしか効力が及ばないと読める。名称と日付で特定する。
更新の対象
理由「本契約」が何を指すか定義されていないと、延長が一部の契約にしか及ばず、期間が再びずれる。
期間の統一を新旧対照にした例
| 箇所 | 現行の定め | 変更後の定め |
|---|---|---|
| 原契約Aの有効期間 | 令和○年○月○日から令和○年○月○日まで | 令和○年○月○日から令和△年△月△日まで |
| 原契約Bの有効期間 | 令和○年○月○日から令和○年○月○日まで(原契約Aと終期が異なる) | 令和○年○月○日から令和△年△月△日まで(原契約Aと同じ) |
| 更新の定め | 原契約Aのみに自動更新の定めがある | 原契約A及び原契約Bのいずれにも、期間満了の○か月前までに異議がなければ○年間延長する旨を適用する |
新旧対照表の使い方は、変更の覚書のページで詳しく扱います。
延長か、更新か、新しい契約か:旧契約から新契約へ移るときの清算
期間を動かす覚書には、延長、更新、新契約への移行という三つの選択肢があります。延長は、同じ契約の終期を後ろにずらすだけで、契約は一つのままです。更新は、同じ条件で新しい期間に入るもので、実質的には延長と近いのですが、更新のたびに条件を見直す機会として使われます。新契約への移行は、旧契約を終了させて、新しい契約書を作り直すものです。
どれを選ぶかの目安は、変更の範囲です。終期だけを動かすなら延長で足ります。期間とあわせて料金や業務内容も動くなら、変更の覚書と組み合わせるか、契約書を作り直す方が見通しがよくなります。覚書を重ねるほど、最新の合意内容がどれなのかを読み取る負担が増えるためです。覚書の積み重ねを整理する方法は、署名・部数・保管と変更履歴の管理のページで扱います。
旧契約を合意解除して、新契約を結んだものとみなす形の覚書も見られます。この形は、新契約の条件を覚書で一括して置けるという利点がある一方で、旧契約の存続中に発生した債権債務の扱いが書かれていないことが多い点に注意が必要です。旧契約の期間中に生じた未払いの対価、預かった物や成果物、秘密保持などの存続させるべき義務をどうするかを書かずに旧契約を終えると、新契約がそれらを引き継ぐのか、旧契約の規定のまま残るのかが分からなくなります。合意解除そのものの書き方は、合意解除の覚書の書き方のページで扱いますが、期間の更新に合意解除を組み込むときも、同じ点が問題になります。
確認の問いと理由延長か、更新か、新契約かを選ぶ前の問い
変わるのは終期だけか。
終期だけなら、延長の覚書で足りる。ほかの条件も変わるなら、変更の覚書か契約書の作り直しを選ぶ。
旧契約の期間中に生じた債権債務は、新しい期間に引き継ぐのか、旧契約のまま残すのか。
書かないと、更新前の未払いや預かり物が、どの条項で扱われるのかが分からなくなる。
存続させたい義務(秘密保持など)の期間は、更新で延びるのか、旧契約の期間で数えるのか。
更新を重ねるほど、義務の存続期間の起点があいまいになる。起点を日付か事由で書く。
更新のたびに覚書を作る運用にするのか。
更新のたびの覚書は、更新漏れの原因になりやすい。自動更新条項を置くか、更新の時期を管理表に載せる。
期間満了後に事実上続けたとき:契約が続いているのか、個別の取引なのか
契約書に自動更新の定めがなく、期間が満了した後も、取引だけが同じように続いてしまうことがあります。担当者が変わった、更新の手続きを忘れていた、更新の覚書を作る話が先送りになっていた、といった理由です。このとき、契約書の条項は新しい取引にも適用されるのか、という疑問が生じます。
民法には、通常の契約について、期間満了後に取引を続けたときの扱いを一般的に定めた規定はありません。契約が黙示に更新されたとみられるのか、あるいは満了後の個々の取引について、従前の契約と同様の内容で個別に合意が成立したとみられるのかは、当事者の言動、取引の継続の態様、請求書や発注の記録など、具体的な事情から判断されます。したがって、期間が満了したまま取引が続いている状態は、契約書の効力が及ぶのかが争いになり得る不安定な状態です。秘密保持、知的財産の帰属、責任の制限などの条項が新しい取引に及ぶのかが、特に問題になります。
この状態に気づいたときは、覚書で整えるのが実務的です。覚書には、期間が満了した事実、その後も取引が続いていた事実、今後の期間と条件、満了後から覚書の日までの取引を原契約の条項に従うものとして扱うかどうか、を書きます。期間を満了の翌日にさかのぼって延長するなら、さかのぼる合意であることを書き、日付を実際と異なる日に書くことは避けます。遡及の書き方は日付と遡及のページで扱います。
条文例満了後に取引が続いていたときに整える覚書(骨格)
- 甲及び乙は、原契約の有効期間が令和○年○月○日に満了したこと、及び同日の翌日以降も、甲乙間で原契約と同様の取引が継続されていたことを確認する。
- 甲及び乙は、前項の取引について、原契約の定めに従って行われたものとして取り扱うことに合意する。
- 原契約の有効期間は、令和○年○月○日から令和○年○月○日までとする。ただし、本覚書に定めのない事項は、原契約の定めによる。
この例は、満了後の取引の扱いを明確にするための一般的な骨格です。満了後の取引に原契約の条項を適用するかどうかは、当事者が合意で決めることです。
賃貸借には特別な定めがある
賃貸借については、更新に関する特別の定めがあります。民法619条1項は、賃貸借の期間が満了した後、賃借人が賃借物の使用または収益を継続する場合において、賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定する、と定めています。この場合、従前の賃貸借で供された担保は期間の満了によって消滅しますが、敷金は除かれます(同条2項)。民法604条は、賃貸借の存続期間は50年を超えることができず、更新する場合も、更新の時から50年を超えることはできない、と定めます。
建物の賃貸借には、借地借家法が適用されます。同法26条1項は、期間の定めがある建物の賃貸借で、期間の満了の1年前から6か月前までの間に、相手方に対して更新をしない旨の通知、または条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす、と定めます。ただし、更新後の期間は、定めがないものとされます。建物の賃貸人が更新を拒絶したり、解約を申し入れたりするには、同法28条の正当の事由が必要です。同法29条は、期間を1年未満とする建物の賃貸借は、期間の定めがない賃貸借とみなす、と定め、民法604条は建物の賃貸借には適用しない、とします。同法38条は、書面によって契約をするなど一定の要件を満たしたときに限り、更新がない定期建物賃貸借を定めることができる、とします。
以上は、賃貸借の更新に関する特別の定めの紹介にとどまります。賃貸借の契約の個別の事情に当てはめる場面では、事案ごとに結論が分かれます。一般の事業者間の契約の期間の覚書は、これらの特則が働かない前提で、契約書の中に更新の仕組みを書くことが基本になります。
期間の覚書に紛れ込みやすいもの:更新に便乗した条件変更と、一般条項のずれ
期間を延長するだけの覚書に、いつのまにか別の条件が書き込まれていることがあります。更新を機に料金を変える、責任の上限を変える、遅延損害金の定めを加える、管轄の裁判所を変える、といった条項です。更新の覚書の中に紛れ込んだ条項は、延長だけの覚書だと思って署名した側にとって、気づきにくい変更になります。
別の条件を変えたいときは、期間の覚書とは別の条を立て、見出しで何を変えるのかが分かるように書きます。たとえば「第1条(有効期間の延長)」「第2条(料金の改定)」のように、変更ごとに条を分け、新旧対照表を添える方法があります。条を分けておくと、署名前に読む側が、延長以外に何が変わるのかを一目で確認できます。
一般条項のずれにも注意が必要です。元の契約に管轄の裁判所を定める条項があるのに、覚書にも別の管轄を書くと、二つの書面で管轄が食い違います。管轄の合意は、書面でしなければ効力を生じません(民事訴訟法11条2項)。食い違った管轄が書面に残ると、どちらの合意が有効に優先するかを争うことになります。覚書に管轄を置かず、元の契約のとおりだと書くのが安全です。優先関係の書き方は、基本契約と覚書の優先関係のページで扱います。
署名前に確認したいこと(期間の覚書)
- 対象となる契約の名称・日付・条番号が、冒頭か別紙の一覧で特定されているか。
- 「本契約」「原契約」「現契約」などの語が、一つの意味で使われているか。
- 始期と終期が日付で書かれているか。「締結日から」と書くなら、起算の考え方を確認したか。
- 自動更新の異議の期限が、到達で数えるのか発信で数えるのかが書かれ、休日の扱いも決まっているか。
- 更新後の期間と条件、更新の回数の上限、次回の異議の期限の基準日が書かれているか。
- 旧契約の期間中に生じた債権債務と、存続させる義務の扱いが書かれているか。
- 期間と関係のない条件(料金、責任、管轄)が紛れ込んでいないか。
- 空欄(日付、金額、期間)が残ったまま署名する運用になっていないか。
起きがちなこと:期間のずれは、気づいたときにはすでに過ぎている
場面別の起きがちなこと
- 契約を同時期に結んだのに、期間がそれぞれ違うため、片方だけ先に満了し、後から気づいて統一の覚書を作ることになる。
- 自動更新の異議の期限が、満了日の何か月前なのかが契約書に書かれていても、発信か到達かが書かれておらず、期限の前日に送った通知が届いたのは期限の後になる。
- 期間の満了日が休日に当たり、期限を翌日と考えていたのに、相手は前日までと考えていて、更新の有無をめぐって認識が分かれる。
- 更新のたびに覚書を作る運用にしていたが、担当者が変わって更新の覚書が作られないまま、期間が過ぎて取引だけが続く。
- 延長の覚書に、他の条件の変更が一緒に書かれていて、署名した側は延長だけの書面だと思っていた。
- 期間統一の覚書で「本契約」と書くと、対象となる契約が一部しか含まれず、統一したつもりの期間がそろわない。
- 旧契約を合意解除して新契約を結んだものとしたのに、旧契約中の未払いや預かり物の扱いが書かれていない。
よくあるご質問
契約の自動更新を覚書で後から加えることはできますか?
当事者が合意すれば加えられます。契約の内容は、法令の制限内で当事者が自由に決められるためです(民法521条2項)。ただし、覚書の中の「本契約」が何を指すのかを定義しておかないと、更新の対象があいまいになります。「原契約」と定義し、更新の条では「原契約の有効期間」と書くなど、対象を固定してください。異議の期限、通知の方法、更新後の期間も、あわせて書きます。
「締結日から1年間」と書くと、いつ満了しますか?
民法の期間の通則では、期間の初日は算入されず(140条)、月または年で定めた期間は暦に従って数えます(143条)。たとえば4月1日に締結して「締結日から1年間」と書いたとき、起算は翌日の4月2日で、満了は翌年の4月1日の終了です。ただし、契約で別の数え方を定めれば、その定めが優先します(138条)。争いを避けるなら、終期を日付で書くと争いになりにくくなります。
更新しない旨の通知は、期限までに「送れば」よいのですか、「届けば」よいのですか?
契約書に定めがなければ、意思表示は通知が相手方に到達した時から効力を生じる、という民法97条1項の原則が基本になります。期限の前日に発信しても、到達が期限の後になれば、間に合わない読み方が出ます。契約書では、到達で数えるのか発信で数えるのかを明記してください。休日に当たる場合の扱いも書いておくと、期限をめぐる食い違いを防げます。
契約期間が切れたまま、取引を続けてしまいました。どうすればよいですか?
一般の契約には、期間満了後の取引の扱いを定めた民法の規定はなく、契約が続いているとみられるのか、個別の取引ごとの合意とみられるのかは、具体的な事情で判断されます。不安定な状態を解消するには、期間が満了した事実、その後も取引が続いていた事実、今後の期間と条件、満了後の取引の扱いを書いた覚書で整えます。遡って適用するときは、遡る合意であることを書き、日付を実際と異なる日に書くことは避けます。
更新の覚書の中に、料金の改定を入れてもよいですか?
入れることはできますが、更新の条とは別の条に分けて書くのが読みやすい方法です。更新に紛れ込ませると、署名する側が延長だけの書面だと誤解する原因になります。また、料金の改定を更新に連動させるなら、改定の通知の期限を、更新しない旨の申出の期限より前に置かないと、改定を知ってから更新を断る時間がなくなります。
あわせて読みたいページ
本ページは一般的な情報提供です。個別の契約への当てはめは、契約の内容や取引の経緯によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、実務でよく見られる書き方を整理した一般的な例で、特定の取引を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で確認できます。参考: e-Gov法令検索 / 法務省 / 公正取引委員会