このページの要点
- 日付は作成日・締結日・効力発生日・適用開始日・履行期限の五つに分け、覚書では締結日と適用開始日を別の文で書く(民法521条2項)。
- さかのぼって適用するなら「○年○月○日以降の取引から適用する」と書き、請求済み・支払済みの分の精算の方法まで定める。署名の日は実際の日を書く。
- 期間は初日不算入が原則(民法140条)で、月・年は応当日の前日に満了する(143条2項)。両端を日付で書くと誤解が生じにくい。
- 確定した支払期限があれば、その到来の時から遅滞の責任が生じる(民法412条1項)。日付や金額の空欄は署名前に埋める。
結論:契約書の「日付」は一つではない。五つに分けて、それぞれ別の欄に書く
契約書や覚書の末尾に書く「令和○年○月○日」は、一見すると単純な記載です。しかし、実際の取引では、この日付が複数の意味を背負わされています。話がまとまった日、書面を作った日、双方が署名した日、内容が効力を持ち始める日、さかのぼって適用する日。これらが別々の日であるのに、書面には一つの日付しか書かれていないと、後から「いつから有効なのか」「いつの分から新しい条件が適用されるのか」が読み手によって分かれます。
特に覚書や変更契約書は、すでに取引が動いている最中に結ぶことが多い書面です。話し合いで条件が決まり、取引は新しい条件で先に進んでしまい、書面の署名が後から追いつく、という順序になりがちです。このとき、署名の日をそのまま書けば実態と合い、新しい条件を前の日から適用したいなら適用開始日を別に書けば足りる、というのが基本の考え方です。反対に、署名した日とは別の日をあたかも署名した日であるかのように書いてしまうと、書面の記載と事実がずれ、別の問題を生みます。
このページは、条文と一般的な契約実務にもとづく整理であり、特定の契約への当てはめではありません。日付と関わりの深い論点として、期間をそろえる・更新するときの書き方は契約期間の変更・自動更新・期間満了後の継続で、変更の覚書そのものの組み立ては変更箇所の特定・新旧対照・効力発生日で扱います。ここでは、日付の種類の書き分け、さかのぼって適用する合意、期間の数え方、日付と遅滞の関係、空欄のまま署名する運用に絞ります。要点を先に並べます。
- 日付は五種類に分ける。作成日、締結日(署名日)、効力発生日、適用開始日、履行期限。覚書では、少なくとも「締結日」と「効力発生日・適用開始日」を別の文で書く。
- さかのぼって適用したいなら、「○年○月○日から適用する」と書く。署名した日を実際と違う日にするのではなく、適用の始まりを合意として書く。
- さかのぼる合意でも、すでに終わった取引の精算の方法は別に決める。請求済みの金額、支払済みの金額をどう扱うかを書かないと、適用開始日の合意だけでは足りない。
- 期間は、初日を数えるのか、いつ満了するのかを書面の中で明示する。民法の原則(初日不算入、末日の終了で満了)は、別段の定めがなければ働くにすぎない。
- 金銭を払う期限は、遅れたときの責任の始まりに直結する。確定した期限があれば、その到来の時から遅滞の責任が生じる(民法412条1項)。
- 日付や金額を空欄にしたまま署名・交付する運用は避ける。空欄を埋める権限と、埋めたあとの確認の手順を決められないなら、埋めてから署名する。
日付を書く前に、手元で確かめる五つのこと
- 話がまとまった日と、書面に署名する日は同じか。違うなら、その間に取引はどちらの条件で動いたか
- 新しい条件は、署名の日から適用するのか、それより前の日から適用するのか、将来の日から適用するのか
- 前の日から適用するなら、その間にすでに請求や支払が済んだ分があるか
- 期間の定めは「何日から何日まで」と書けているか。「○か月間」「○年間」と書くなら、起算の日を示せているか
- 日付の欄が空欄のまま残る書式になっていないか。残る場合、誰がいつ、どの資料に基づいて埋めるのか
日付を五つに分けて書き分ける:作成日・締結日・効力発生日・適用開始日・履行期限
契約書に出てくる日付は、法律の用語として厳密に定義されているわけではありません。ただ、契約書の作成の場面では、次の五つを意識して書き分けると、読み手が迷いにくくなります。表にまとめます。
契約書に出てくる五つの日付
| 日付 | 意味 | 書き方の例 | 食い違うと起きること |
|---|---|---|---|
| 作成日 | 書面の案文を作った日、または書面を作成したとされる日 | 書面の末尾の日付、ファイルの更新日など。書面の中で特に意味を持たせないことが多い | 作成日と締結日が混同され、「いつの合意なのか」が読み手によって分かれる |
| 締結日(署名日) | 当事者が合意して書面に署名または記名押印した日。契約が成立した日に近い | 「令和○年○月○日」と末尾に書く。当事者が別々の日に署名するときは、各署名欄に日付を添える | 実際の署名より前の日付を書くと、書面の記載と事実がずれる |
| 効力発生日 | 合意の内容が効力を持ち始める日 | 「本覚書は、令和○年○月○日から効力を生じる」と書く | 書かないと、署名の日から効力が生じると読まれるのが通常であり、意図と違う場合に争いになる |
| 適用開始日 | 新しい条件を実際に適用し始める日。さかのぼる場合も、将来の場合もある | 「変更後の条項は、令和○年○月○日以降に発生する取引から適用する」 | 請求書の締め日や納品の日との関係が書かれていないと、どの取引から新条件なのか分からない |
| 履行期限 | 金銭の支払、納品、通知などをいつまでにするかという日 | 「毎月末日までに支払う」「納品後○日以内に通知する」 | 期限が確定していないと、遅滞の責任がいつ始まるかが争われる(民法412条) |
表のうち、特に混同されやすいのは「効力発生日」と「適用開始日」です。効力発生日は、その覚書という合意そのものがいつから働くかを示します。適用開始日は、合意の内容である新しい条件を、どの取引のどの時点から当てはめるかを示します。たとえば、署名の日に覚書の効力が生じるとしつつ、新しい報酬の条件は前の月の初めの分から適用する、という書き方もできます。逆に、署名はすでに済んでいるが、新しい条件の適用は来月の初めからにする、という書き方もできます。この二つを一つの日付で済ませようとすると、書面を読んだ人が自分に都合のよい方で読んでしまう余地が生まれます。
また、契約書の冒頭に「令和○年○月○日付で締結した○○契約書」と原契約を特定する日付は、原契約の締結日です。覚書自体の日付と取り違えないようにします。覚書の前文では、原契約の名称と日付を特定する文の中の日付と、覚書の末尾に書く日付を、はっきり別の欄に置きます。原契約を特定する日付の書き方や、「原契約」「本契約」といった言葉の統一については、契約書の変更を覚書で行うときの書き方と合わせて読むと、全体が見えます。
日付の欄を書く順序(上から順に決める)
- 原契約の特定原契約の名称・締結日を特定する。覚書の日付とは別の欄に書く
- 覚書の締結日双方が署名する日。末尾に書く。別々の日に署名するなら各署名欄に日付を添える
- 効力発生日覚書が効力を持ち始める日。何も書かなければ、締結の時と読まれるのが通常
- 適用開始日新しい条件を当てはめ始める取引や期間の始まりを書く。さかのぼるときは、ここで書く
- 履行期限と存続期間支払や通知の期限、契約が続く期間の始期と終期を書く
上の欄ほど、他の日付の前提になる。上から順に決めると、下の欄の矛盾に気づきやすい。
さかのぼって適用する合意の書き方:「から適用する」と書き、締結日は偽らない
取引の現場では、条件の変更が口頭やメッセージで先に決まり、書面が後から作られることが珍しくありません。「先月から新しい単価でやっているので、先月からの分として覚書にしたい」という場面です。このとき、書面の締結日を先月の日付に書き換えるのではなく、覚書は今日締結し、新しい単価は先月の初めから適用すると書くのが筋です。実際に合意した日と、合意した内容の適用の始まりは、別々の事実として書けるからです。
契約自由の原則から、当事者は法令の制限内で契約の内容を自由に決めることができます(民法521条2項)。新しい条件を、署名より前の日から適用するという内容も、当事者が合意するなら、原則として定めることができます。ただし、さかのぼる範囲には現実的な限界があります。すでに請求書を発行して支払も終わっている分を、後から差額精算するのか、しないのか。第三者が関わる取引(再委託先への支払など)に、新しい条件を波及させるのか。さかのぼる合意は、これらの扱いまで書いて初めて機能します。
条文例適用開始日と精算を定める条文の例(一般的な例)
- 本覚書は、令和○年○月○日に締結し、締結の日から効力を生じる。
- 第○条の変更後の定めは、令和○年○月○日以降に発生した取引(以下「対象取引」という。)から適用する。
- 対象取引のうち、本覚書の締結の日までに請求または支払が完了したものについては、変更前の定めと変更後の定めとの差額を、令和○年○月○日までに精算する。
- 前項の精算の結果、差額が生じないものとして取り扱う取引は、別紙に記載する。
締結の日と適用開始日を別の文に分け、さかのぼる部分の精算の方法と期限まで書く。差額精算をしない取引を別紙で特定しておくと、適用の範囲が明確になる。
条文例の第1項は、署名の日に効力が生じることを書き、第2項で適用の始まりを別に書いています。これだけで、「いつ合意したのか」と「いつの分から新しい条件か」が分かれて読めます。第3項と第4項は、すでに完了した取引の扱いです。ここを書かないまま適用開始日だけを書くと、請求済みの分について、片方は精算すべきだと考え、もう片方は終わった話だと考える、という食い違いが起きます。
書き方の例(一般的な例) 適用開始日の書き方
日付の書き方
理由署名した事実と書面の記載がずれず、新しい条件が前の日から適用されることも読み取れる
適用の範囲
理由請求書の締め日、納品の日、支払の日のどれを基準にするかで、適用される取引が変わるため
すでに終わった取引
理由書かないと、請求済み・支払済みの分を蒸し返すのか否かで当事者の理解が分かれる
なお、「追認」が契約の時にさかのぼって効力を生じるという条文(民法116条)は、代理権のない人が他人の代理人として結んだ契約を、本人が追認する場面の規定です。一般の覚書で適用開始日をさかのぼらせる合意とは別の話です。両者を混ぜて、「追認すれば何でもさかのぼる」と読まないようにします。無権代理の扱いは、署名者の権限と代理で整理しています。
実際と違う日付を締結日に書かない:記載と事実のずれが生む二つの困りごと
締結日をさかのぼらせたい、という希望の背景には、いくつかの動機があります。取引の開始の日に合わせたい、先に動いた事実を書面で裏付けたい、前の契約の期間が切れた日の翌日から切れ目なく続いているように見せたい、などです。気持ちは理解できますが、実際に署名した日と違う日を、署名した日として書くことは勧められません。理由は二つに整理できます。
一つめは、書面を読む第三者との関係です。契約書は、当事者だけでなく、取引先、金融機関、監査をする人、紛争になれば裁判所など、後から読む人がいます。そのとき、書面の日付が実際の署名の日と食い違っていると、書面全体の信頼性が下がります。私文書は、本人または代理人の署名または押印があるときに、真正に成立したものと推定されます(民事訴訟法228条4項)。この推定が働くのは「その人が作成した文書である」という点であり、日付の記載が実際の署名の日と一致していることまでを保証するものではありません。日付を偽った書面は、他の記載の信頼にも影響しかねません。
二つめは、日付が持つ法的な意味との関係です。ある種の権利関係では、書面の日付そのものが重要になります。たとえば、債権の譲渡を債務者以外の第三者に主張するには、譲渡の通知または承諾を、確定日付のある証書によってする必要があります(民法467条2項)。確定日付とは、その日にその書面が存在したことを公的に証明する日付であり、公正証書の日付、公証人役場や登記所で私署証書に日付のある印章を押した日付などが確定日付になります(民法施行法5条)。確定日付は、当事者が書面に書いた日付とは別の仕組みです。当事者が自分で書いた日付をいくら工夫しても、確定日付にはなりません。第三者に対して「その日にこの合意があった」と示す必要がある場面では、書面の日付を自分たちで動かす発想自体がなじみません。
確認の問いと理由日付をさかのぼらせたいと思ったときの確認の問い
さかのぼらせたい動機は、適用の問題か、成立の問題か
新しい条件の適用の始まりが前の日である、という話なら、適用開始日として書けば足りる。合意の成立そのものを前の日にしたい、という話なら、実際の合意の日と書面の日付が食い違うことになり、避けるべき場合が多い
書面の日付が実際の署名の日と違うと、誰が困るか
取引先、金融機関、監査をする人、紛争になったときに読む人が、書面の日付と取引の動きの食い違いを見つけたとき、説明が必要になる。当事者が将来の自分に説明できる書き方かを基準にする
第三者に主張したい合意か
第三者に日付を示す必要がある合意(債権の譲渡など)は、確定日付のある証書が必要になる場面がある(民法467条2項)。当事者が書いた日付では代わりにならない
日付の問題は「正直に書けば足りる」ことが多い。署名の日は署名の日、適用の始まりは適用の始まりとして、別の欄に書く。
期間の数え方:初日を数えるか、いつ満了するかは、書面の中で明示する
覚書の日付の論点のうち、実は一番見落とされやすいのが、期間の数え方です。契約期間を「1年間」「6か月間」と書くとき、その期間がいつ始まり、いつ終わるのか。民法には、期間の計算の通則があります。期間の計算方法は、法令や裁判上の命令に特別の定めがある場合、または法律行為に別段の定めがある場合を除き、民法の規定に従います(民法138条)。つまり、契約書に別段の定めを書けば、そちらが優先します。書かなければ、民法の原則で数えられます。
民法の原則を確認します。日、週、月または年によって期間を定めたときは、期間の初日は算入しません。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、初日を算入します(民法140条)。期間は、その末日の終了をもって満了します(民法141条)。週、月または年によって期間を定めたときは、暦に従って計算し、週、月または年の初めから期間を起算しないときは、最後の週、月または年において起算日に応当する日の前日に満了します。ただし、最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に満了します(民法143条)。期間の末日が日曜日や祝日などの休日に当たるときは、その日に取引をしない慣習がある場合に限り、期間は翌日に満了します(民法142条)。
期間の計算の考え方の例(令和の年は○で表す)
| 書き方 | 起算と満了の読み方 | 注意点 |
|---|---|---|
| 「令和○年4月1日から1年間」と書く | 期間が4月1日の午前零時から始まるものとして、初日の4月1日を算入するのが自然な読み方であり、翌年の3月31日の終了で満了する | 「から」の語が初日を含む意味なのか、書面の中でそろえておく。「4月1日から翌年3月31日まで」と両端の日付を書くと誤解が生じにくい |
| 署名の日(4月1日の昼)に「本日から1年間」と書く | 期間が午前零時から始まらないため、初日は算入されず、起算は4月2日となる。民法143条2項により、翌年の4月1日の終了で満了する | 初日算入にしたいなら、「本日(初日を含む)から」と書くか、日付で両端を示す |
| 期間満了日が休日にあたる | 民法142条は、その日に取引をしない慣習がある場合に限り、翌日に満了するとする | 異議を出す期限など、期限が重要な場面では、休日の場合の扱い(前の営業日までか、翌営業日までか)を書く |
表の二行目と三行目のような食い違いは、期間そのものの長さに影響します。1日の違いでも、自動更新の異議を出す期限(「満了の○か月前まで」)と組み合わさると、更新されるかどうかの結論が変わりかねません。自動更新の条項の書き方は期間の変更・自動更新と異議の期限で詳しく扱いますが、日付の面からは、起算の日と満了の日を両端の日付で書いておくことが、有力な予防になります。
期間を書くときの手順
原契約と覚書で期間の数え方が違うと、期間がそろわない。覚書では原契約の数え方に合わせるか、覚書の数え方を明示して原契約の該当部分を改める。
日付と履行期限:確定期限があれば、その到来の時から遅滞の責任が生じる
日付の書き方は、お金の支払が遅れたときの責任にも結びつきます。債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負います(民法412条1項)。不確定期限のときは、期限の到来後に履行の請求を受けた時、または期限の到来を知った時のいずれか早い時から(同条2項)、期限を定めなかったときは、履行の請求を受けた時から(同条3項)、遅滞の責任を負います。
覚書で支払条件を変えるとき、たとえば「毎月末日締め、翌月末日払い」を「毎月末日締め、翌月15日払い」に改めるなら、変更後の支払日が確定した期限として読めるように書かれているかが重要です。「できるだけ早く」「別途協議して定める日までに」のような書き方は、確定した期限にあたらず、いつから遅滞なのかが不明確になります。
金銭の支払の遅れについては、損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定めるのが原則で、約定の利率が法定利率を超えるときは約定の利率によります(民法419条1項)。法定利率は年3パーセントを基準として、3年を一期として見直される仕組みです(民法404条2項・3項)。したがって、覚書で遅延損害金の率を新しく定めるときは、率の書き方に加えて、遅延の起算の日を「支払期日の翌日から」と書くのか、「支払期日から」と書くのかなど、日付の読み方も含めて整えます。率そのものの水準は、取引の性質や当事者の関係によって評価が分かれるため、ここでは一般論にとどめます。
書き方の例(一般的な例) 支払期限の書き方
支払期日
理由確定した期限であれば、期限の到来した時から遅滞の責任が生じる(民法412条1項)。協議次第の日では、遅滞の始まりが争いになる
遅延の起算日
理由起算の日が書かれていないと、日割りの計算の基準が当事者で食い違う
変更前後の境目
理由切り替えの月が書かれていないと、境目の請求の支払日がどちらの定めか分からない
空欄・後日記入の運用:日付、金額、期間を空けたまま署名しない
覚書の書式の中には、日付、金額、期間、負担者などを空欄にした様式があります。個別の案件ごとに条件を書き込んで使う付属の書式として、実務で一定程度よく見られます。空欄式の書式そのものが悪いわけではありませんが、運用を誤ると、書面の効力と信頼性に関わる問題が起きます。
空欄を残したまま署名し、相手方に渡してしまう運用では、後から空欄が埋められたときに、署名した人が合意した内容と、書面に記載された内容が一致している保証がありません。署名後に当事者の一方が空欄を埋めた場合、その内容に合意していたのか、埋める権限を与えていたのか、与えていたとしてどの範囲までか、という点が争いになり得ます。署名または押印があるときに文書の成立が推定される(民事訴訟法228条4項)としても、それは「署名した人がその文書を作成した」という推定であり、署名後に書き加えられた部分についてまで内容に合意していたことを意味するものではありません。
空欄の書式を使う場合に、実務で一般に整えておきたい運用を並べます。まず、空欄は、署名の前に埋めます。署名の時点で埋められない項目があるなら、その項目を決める方法(誰が、いつまでに、どの資料に基づいて決めるか)を、書面の中に書きます。たとえば、金額を後で定めるなら、「別紙の見積書記載の金額による」と書き、別紙を署名の時点で特定しておきます。次に、空欄に斜線を引く、「以下余白」と書くなど、不要な空欄が後から埋められないようにします。最後に、署名後に埋める項目がある場合は、埋めた後に双方が内容を確認する手順(確認の通知、確認のための署名や押印)を定めます。
空欄式の書式を使うときの運用チェック
- 署名の前に、日付・金額・期間・負担者などの空欄をすべて埋めたか
- 署名時に決められない項目は、決め方(誰が・いつまでに・何に基づいて)を本文に書いたか
- 使わない空欄には、斜線または「以下余白」の記載を入れたか
- 署名後に埋める項目があるなら、埋めた後に双方が確認する手順を決めたか
- 交付する書面の控えと、相手方が持つ書面とで、記載内容が一致しているか
日付についても同じです。日付欄を空欄のまま渡し、後で相手が書き入れる運用は、書き入れる日が署名の日と食い違う危険があります。署名の日を書くのは署名の日、という基本に戻り、署名の場で日付を書く運用にします。当事者が離れた場所にいて、郵送で順に署名する場合は、各自の署名欄に自分の署名の日を書き、最後の人が署名した日を、全体の締結日とします。署名の順序や部数の扱いは、署名・押印・部数・保管で整理しています。
起きがちなこと:日付をめぐるつまずきを、場面ごとに
日付に関して起きがちなこと
- 覚書の末尾の日付が原契約の締結日の書き写しになっており、覚書がいつ結ばれたのか分からない
- 効力発生日が書かれておらず、新しい条件がいつの請求分から適用されるのか、当事者の理解が分かれる
- さかのぼって適用する旨は書いたが、請求済み・支払済みの分の精算の方法が書かれておらず、後で差額をめぐって食い違う
- 「1年間」とだけ書いて起算の日を書かなかったため、満了の日がずれ、更新の異議を出す期限を過ぎてしまう
- 複数の契約の期間をそろえる覚書で、各契約の満了日の数え方が違い、そろえたつもりがそろっていない
- 支払期限が「協議して定める日」になっており、遅れたときにいつから遅滞なのか分からない
- 日付欄が空欄のまま署名・交付され、後から相手が記入した日付が実際の署名の日と食い違う
- 署名者が別々の日に署名したのに、全員の署名が終わった日が書面のどこにも出ていない
- 原契約を特定する日付と、覚書の日付を取り違えて書き、どの契約を変えているのか読み取れない
これらは、どれも書面の日付の欄を一つで済ませようとすることから生じています。五種類の日付を意識して、それぞれを別の文または別の欄に書き分けるだけで、多くは予防できます。日付をそろえるときは、あわせて完全合意条項と書面による変更の条項との関係も確認しておくと、口頭で先に決めた条件が書面に反映されないまま残る事態を避けやすくなります。また、全体の使い分けは覚書・合意書・変更契約書の使い分けに戻って確認できます。
よくあるご質問
覚書の日付は、実際に決めた日と署名した日のどちらを書けばよいですか?
締結日として書くのは、双方が署名した日です。話がまとまった日が別にあるなら、前文などで「令和○年○月○日に合意した内容を、書面にするものとして」と、経緯として書くことができます。合意した日と署名した日を一つの欄に押し込まず、署名の日は署名の日、合意の日は経緯として書き分けるのが、後から読んで迷わない書き方です。
新しい条件を前の日からさかのぼって適用したいとき、締結日を前の日にしてもよいですか?
締結日を前の日にするのではなく、締結日は署名の日のまま書き、本文で「令和○年○月○日以降の取引から適用する」と書くのが基本です。契約の内容は当事者が法令の制限内で自由に決められる(民法521条2項)ので、適用の始まりをさかのぼらせる合意は書けます。あわせて、すでに請求や支払が済んだ分の精算の方法を書いておきます。
契約期間を「1年間」と書いたとき、いつ満了しますか?
別段の定めがなければ、民法の期間の計算の通則に従います(民法138条)。初日は、午前零時から始まる場合を除き算入せず(民法140条)、月または年で定めた期間は暦に従って、起算日に応当する日の前日に満了します(民法143条2項)。実際には、期間の両端を「令和○年○月○日から令和○年○月○日まで」と日付で書くと誤解が生じにくく、更新の異議を出す期限とも組み合わせやすくなります。
日付を空欄にして署名し、相手に後から記入してもらってもよいですか?
勧められません。空欄を埋める権限の範囲や、埋められた内容に合意していたかが後から争いになり得ます。署名または押印があれば文書は真正に成立したものと推定されますが(民事訴訟法228条4項)、それは署名した人がその文書を作成したという推定であり、署名後に書き加えられた内容への合意までを保証するものではありません。署名の前に埋めるのが基本で、署名後に決める項目があるなら、決め方と確認の手順を本文に書いておきます。
確定日付とは何ですか?覚書に必要ですか?
確定日付とは、その日にその書面が存在したことを公的に証明する日付で、公正証書の日付や、公証人役場などで私署証書に日付のある印章を押した日付などがあたります(民法施行法5条)。債権の譲渡を債務者以外の第三者に主張するときなど、法律が確定日付のある証書を求める場面(民法467条2項)では必要になりますが、すべての覚書に必要なわけではありません。当事者が書面に書いた日付とは別の仕組みなので、自分たちで日付を調整しても確定日付にはなりません。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の契約への当てはめは、契約の内容や取引の経緯によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、実務でよく見られる書き方を整理した一般的な例で、特定の取引を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で確認できます。参考: e-Gov法令検索 / 法務省 / 公正取引委員会