完全合意条項の書き方:以前の約束・メール・口約束と、後から結ぶ覚書の関係

契約書の終わりにある「本契約が合意のすべて」という条項は、契約前の説明やメールの約束を外す働きがあります。一方で、後から結ぶ覚書や、メールで重ねてきた変更との関係は、書き方次第で不安定になります。条項の型、書面による変更の条項、複数の書面の一式扱いを整理します。

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「変更は署名のある書面による」と書いてあるのに、実際はメールで変更を重ねてきた、という契約で、後から変更の有効性が争われることがあります。

このページの要点

  • 完全合意条項が外すのは主に契約締結前の合意・交渉・提案。締結後の覚書を当然に無効にするものではない。
  • 後続の覚書は、原契約との関係と、原契約の変更の方式を踏んだことを書いておく。原契約側も、条項を締結時点の合意に限定して書く。
  • 「書面による変更」の条項は、メールを含むのか、誰が合意できるのかを決め、運用の実態に合わせる。
  • 見積書・仕様書・覚書などは、契約の内容(別紙)か参考資料かを決めて、書面の一覧表に載せる。

結論:完全合意条項は「その書面に載っていない、締結前のやり取り」を契約の内容から外す条項。後から結ぶ書面を禁じるものではない

契約書の終わりのほうに、「本契約は、本契約に関する当事者間の完全な合意を構成し、本契約締結前の一切の合意、交渉、提案に優先する」といった条項が置かれていることがあります。完全合意条項、あるいは最終合意条項などと呼ばれます。もともとは英米の契約書で定着した条項で、日本の契約書にも、国際的な取引や、雛形をもとにした契約書を通じて広く入りました。

この条項を見た人が、よく心配するのは次の三点です。一つは、契約前に聞いた説明や、メールで交わした約束は、すべて無効になるのか。二つは、契約の後に結ぶ覚書や変更の合意も、この条項によって消されるのか。三つは、口頭でその場で決めた変更は、契約書に書いていなければ効力がないのか。結論を先に述べると、この条項の主な働きは、契約を締結した時点より前の交渉過程で出てきた話を、契約の内容として持ち出させないようにすることです。契約を締結した後に、当事者が新たに合意することを禁じるものではありません。

  • 完全合意条項が外すのは、主に「契約締結前」の合意・交渉・提案・表示。契約締結後の覚書や変更契約を、当然に無効にするものではない。
  • 後から結ぶ覚書が効力を持ちやすくするには、覚書の中で原契約との関係を書き、原契約の「書面による変更」の条項の手続を踏んでおく。
  • 「変更は書面による」と定める条項は、メールやチャットでの変更合意を認めるのか否かを決めておく。運用と条項が食い違うと、どちらが実態か分からなくなる。
  • 契約書、別紙、仕様書、見積書、覚書など、複数の書面を一式として扱う場合は、一覧表を作り、どれが契約の内容で、どれが参考資料かを決めておく。
  • 消費者との契約や、約款による契約では、口頭の説明を一切排除するかのような条項は、別の規律(消費者契約法など)の点検が必要になる。

このページは、条項の型、契約前のやり取りの扱い、後から覚書を結ぶときの書き方、書面による変更の条項、複数の書面の一式扱い、この条項が働きにくい場面の順に説明します。書面の優先順位の決め方は基本契約と覚書の優先関係のページで、変更の覚書の書き方は契約書の変更を覚書で行うときの書き方のページで扱います。

完全合意条項の型:最小の形、詳しい形、変更の条項と組み合わせた形

完全合意条項は、書き方によって、働きの強さが変わります。一般的な型を並べると、次の三つになります。

完全合意条項の主な型

型書き方の例働き注意点
最小の形本契約は、当事者間の合意のすべてである。契約書に載っていない事項は、合意の内容ではないと確認する「合意のすべて」が、どの時点の合意を指すのか分からない。後から結ぶ覚書との関係が書かれていない
締結前の合意を外す形本契約は、本契約に関する当事者間の最終的な合意であり、本契約締結前の口頭又は書面による一切の合意、交渉、提案に優先する。契約締結前のやり取りを、契約の内容として持ち出させない「優先する」と書くか「効力を失う」と書くかで、前の合意を消すのか、劣後させるだけなのかが分かれる
変更の条項と組み合わせた形前項に加え、本契約の変更は、当事者が署名又は記名押印した書面によらなければ、その効力を生じない。締結後の変更の方式も限定し、口頭による変更の主張を抑える運用で、メールやチャットで変更してきた実態と食い違うと、条項が形だけになる

日本の民法は、契約の内容を当事者が自由に決められるとし(民法521条2項)、契約の成立には書面などの方式を要しない(同法522条2項)としています。また、法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従います(同法91条)。完全合意条項は、この契約自由の原則の中で、当事者が「この書面に載っていないことは、合意の内容としない」という意思を表示しておくものです。

ただし、条項があれば、契約書の外の事情が一切考慮されなくなる、というわけではありません。民事訴訟法247条は、裁判所は、判決をするに当たり、口頭弁論の全趣旨および証拠調べの結果をしん酌して、自由な心証により、事実についての主張を真実と認めるべきか否かを判断する、と定めています。契約の内容や、当事者がどう合意したのかは、最終的には証拠を総合して判断されます。完全合意条項は、その判断における有力な事情の一つですが、すべてを決める条項ではありません。

口約束・メール・見積書は、契約の内容になるのか

契約書を結ぶ前に、担当者どうしが口頭やメールで細かい条件を話し合うのは、ごく普通のことです。見積書や提案書、仕様書、打合せのメモも、契約書の前後に作られます。これらが契約の内容になるのかどうかを、条項の有無で整理します。

完全合意条項がない契約書の場合、契約書に載っていない口頭の約束や、メールで交わした条件も、合意があったと認定されれば、契約の内容になり得ます。契約の成立に方式は要らないためです(民法522条2項)。ただし、合意があったことは、主張する側が証拠で示さなければなりません。契約書という書面があるとき、書面に載っていない約束を示すのは、一般に難しくなります。民事訴訟法228条4項は、私文書は、本人またはその代理人の署名または押印があるときは、真正に成立したものと推定する、と定めています。署名や押印のある契約書は、作成の真正が推定されるため、その内容は強い証拠になります。

完全合意条項がある場合は、契約書の内容が合意のすべてであり、締結前の口頭やメールの約束は含まれない、という当事者の意思が書面で示されます。そのため、契約書に載っていない事前の約束を、契約の内容として主張することは、さらに難しくなります。契約書に載せたい約束は、契約書の中に入れておく必要があります。見積書や仕様書の内容を契約の一部にしたいときは、それらを契約書の別紙として添付するか、契約書の中で「別紙の仕様書によるものとする」と書いて、契約書の一部であることを明確にします。

書き方の例(一般的な例) 契約前のやり取りの扱い

契約前の合意の扱い

よくある書き方本契約は、当事者間の完全な合意を構成する。
整えた書き方本契約は、本契約の対象事項に関する当事者間の最終的な合意であり、本契約締結前に当事者間でなされた口頭又は書面による一切の合意、交渉及び提案に優先する。ただし、別紙として添付されたものは、本契約の一部とする。

理由「完全な合意」だけでは、いつの時点の何を外すのかが読み取れない。対象の事項、時点、別紙の扱いを書く。

見積書・仕様書

よくある書き方詳細は、別途送付した見積書のとおりとする。
整えた書き方詳細は、別紙1の仕様書及び別紙2の料金表のとおりとする。別紙は、本契約と一体のものとして取り扱う。

理由見積書が契約の一部なのか、単なる参考資料なのかが決まっていないと、完全合意条項と矛盾する。

契約前の約束が契約書から落ちる例は、実務でよく見られます。説明を受けて重要だと思った点が、契約書の条項になっていない。口頭で約束してもらった納期の目安が、契約書では「別途協議」になっている。メールで確認した追加費用の扱いが、契約書の料金の条にない。完全合意条項は、こうした落ちた約束を契約の内容としては扱わない、という確認でもあります。署名の前に、重要な説明の内容が、条項として書かれているかを確かめることが、この条項を前にして取れる現実的な対策です。

契約の締結前の説明の内容が、事実と異なっていた場合は、別の問題です。契約の内容を限定する完全合意条項と、意思表示に問題があったときの錯誤(民法95条)や詐欺(同法96条)による取消しとは、別の層の話と考えられます。ただし、取消しが認められるかどうかは個別の事情によるため、ここでは条文の構造の紹介にとどめます。取消しの要件は、署名後の撤回と取消しのページで扱います。

後から結ぶ覚書は、完全合意条項に消されるのか

完全合意条項が置かれた契約書に、後から覚書を結ぶ場面を考えます。たとえば、契約書の締結から半年後に、料金の改定や業務の追加を覚書で定める場合です。このとき、覚書は契約書に書かれた完全合意条項によって、無効になるのでしょうか。

完全合意条項の典型的な文言は、「契約締結前の」合意などを対象にしています。覚書は、契約締結後の合意です。したがって、典型的な文言の完全合意条項は、後から結ぶ覚書の効力を直接に否定するものではない、と読むのが自然です。契約の内容は、当事者が合意で自由に変えられるからです(民法521条2項、522条2項)。後の合意は、前の合意を変えることができます。

しかし、実務ではこの点が次の理由で不安定になります。第一に、完全合意条項が「締結前」と限定されず、「一切の合意」「本契約に関するすべての合意」と広く書かれている場合、後の覚書まで含むかのように読めてしまうことがあります。第二に、完全合意条項に「書面による変更」の条項が組み合わされていて、その条項が定める方式(署名または記名押印のある書面など)を満たさない覚書は、変更として認められないと主張される場合があります。第三に、覚書が原契約との関係を書いておらず、原契約の変更なのか、別の独立した合意なのかが分からない場合があります。

これらを避けるには、覚書の側で次のことを書きます。原契約の特定(名称、日付)、覚書が原契約を変更または補充するものであること、変更しない部分は原契約のとおりであること、覚書と原契約の優先関係です。原契約の側では、完全合意条項を「締結時点の合意」に限定して書き、締結後に当事者が書面で行った合意は原契約と一体のものとして扱うと書いておきます。

条文例完全合意条項と、後続の書面の関係を整える条項の例

  1. 本契約は、本契約の対象事項に関する当事者間の最終的な合意であり、本契約締結前に当事者間でなされた口頭又は書面による一切の合意、交渉及び提案に優先する。
  2. 本契約締結後に、当事者が本契約の変更又は補充について署名又は記名押印した書面(以下「変更覚書」という。)により合意したときは、変更覚書は、本契約と一体をなすものとする。
  3. 変更覚書に定めのない事項は、本契約の定めによる。変更覚書と本契約の定めが異なるときは、変更覚書の定めを、その部分に限り優先する。

この例は、完全合意条項が締結前の合意を対象とすること、後続の書面は一体のものとして扱うこと、優先関係を、三つの項に分けて書いた骨格です。

条文例覚書の側に置く、原契約との関係の条項(例)

  1. 本覚書は、令和○年○月○日付で甲乙間で締結した○○契約(以下「原契約」という。)の第○条を、次のとおり改めるものである。
  2. 本覚書に定めのない事項は、原契約のとおりとする。本覚書と原契約の定めが異なるときは、本覚書の定めを、その部分に限り優先する。
  3. 本覚書は、原契約第○条(変更の方式)に定める書面による変更として締結するものである。

第3項のように、原契約の「書面による変更」の条項の手続を踏むことを、覚書の中で確認しておくと、方式の不備の主張を防ぎやすくなります。

「変更は書面による」条項と、実際にはメールで変えてきた運用のずれ

完全合意条項とよく組み合わされるのが、書面による変更の条項(変更条項)です。典型的な文言は、「本契約の変更は、当事者が署名又は記名押印した書面によらなければ、その効力を生じない」です。この条項は、口頭や、非公式なやり取りで契約が事実上変わってしまうことを防ぐ目的で置かれます。

ところが、実際の取引では、契約書を結んだ後の細かい変更を、メールやチャットで済ませていることが少なくありません。納期の変更、数量の増減、担当者の変更、料金の調整などです。変更条項が署名または押印のある書面を求めているのに、運用はメールで足りるものとして続いている場合、条項と実態が食い違います。後に争いが生じたとき、変更条項を根拠に「メールでの変更は無効」と主張されるおそれがあります。逆に、メールでの変更を信頼して履行してきた側が、変更条項を理由に、変更後の内容を否定されることもあり得ます。

この食い違いを防ぐには、変更条項の中で、変更できる方式を実態に合わせて決めます。契約書に署名した者の署名がある書面だけを認めるのか、電子メールも認めるのか、認めるなら誰が誰宛に送ったものを有効な変更とするのか。契約書の本体を変える変更と、日常の運用上の指示(納期の調整など)とを分けるのも有効な方法です。

書き方の例(一般的な例) 変更の方式の書き方

変更の方式

よくある書き方本契約の変更は、書面によらなければ効力を生じない。
整えた書き方本契約の変更は、当事者が署名若しくは記名押印した書面又は電子署名その他本人性を確認できる方法により合意された電磁的記録によらなければ、効力を生じない。ただし、納期の調整その他の運用上の指示で、別紙に定める担当者間の電子メールによるものは、この限りでない。

理由「書面」にメールを含むのか否かが決まっていないと、実態との食い違いが生じる。運用上の軽微な調整は、別枠で認める。

変更を合意できる人

よくある書き方(定めなし)
整えた書き方本契約の変更を合意できる者は、各当事者の代表者又はその委任を受けた者に限る。担当者が合意できる範囲は、別紙に定める運用上の指示に限る。

理由担当者が口頭やメールで契約の内容を変えてしまうことを防ぐ。署名者の権限は、別のページで扱う。

署名者の権限と、誰が変更の合意をできるのかは、当事者・署名者・権限のページで扱います。変更合意の署名や押印、電子署名による場合の考え方は署名・部数・保管のページで扱います。変更条項を置く場合も、運用の実態を調べてから、実態に合う方式を書くのが基本です。

なお、契約書に変更条項があっても、当事者が合意により、その変更条項自体を別の方式に変更することは、契約自由の原則から、理論上は可能と考えられます。しかし、実際に争いになった場合に、その合意の有無と範囲を証明する負担は、変更を主張する側にかかります。条項が書面を求めているときは、最初から書面を作っておくことが、堅実です。

複数の書面を一式として扱う:書面の一覧表と、別紙の位置づけ

契約書本体のほかに、別紙、仕様書、料金表、個別契約、覚書、発注書、見積書、運用ルールなど、複数の書面が関わる取引は少なくありません。それぞれの書面が、契約の内容なのか、参考資料なのか、変更の記録なのかを決めておくために、完全合意条項と合わせて、書面の一覧を置く方法があります。

契約書面の一式の組み立て(上ほど優先する書き方の一例)

  1. 変更覚書契約締結後に、書面で合意した変更・補充。変更した部分に限り優先する。
  2. 個別契約・注文書個別の取引条件。基本契約の範囲内で、個別の数量・納期・金額を定める。
  3. 基本契約(契約書本体)取引全体の共通条件。完全合意条項と変更の方式の条項を置く。
  4. 別紙(仕様書、料金表)契約書の一部として添付した資料。本体と一体の扱いとする。
  5. 参考資料(見積書、提案書、打合せ記録)契約の内容ではなく、参考資料として扱う。契約の内容にしたいものは別紙にする。

図は一例です。優先する向きは、取引ごとに決めます。優先関係を書く条項の詳しい書き方は、基本契約と覚書の優先関係のページで扱います。

一式の考え方で最も重要なのは、「契約の内容である書面」と「参考資料にとどまる書面」の線引きです。見積書や提案書は、契約の前の段階で作られますから、完全合意条項があれば、契約の内容から外されます。見積書の内容を契約の一部にするなら、契約書の別紙に付けるか、契約書の中で内容を転記します。反対に、見積書を参考にしたいだけであれば、契約書の中で、見積書は契約の内容ではないことを確認しておくと、後の食い違いを避けられます。

書面の一覧を作る際は、書面の名称、作成日、版を特定します。契約書を更新するたびに別紙の版が変わる場合は、どの版が現行なのかを管理できる仕組みが必要になります。版の管理表の作り方は署名・部数・保管のページで扱います。

確認の問いと理由署名前に確認したい問い(完全合意条項まわり)

  1. 契約前に説明を受けた重要な事項は、契約書の条項または別紙に入っているか。

    完全合意条項があると、契約書に載っていない事前の約束は、契約の内容として主張しにくくなる。

  2. 完全合意条項は、いつの時点の合意を対象としているか。

    「締結前」と限定されていないと、後から結ぶ覚書まで含むかのように読めるため。

  3. 契約の変更は、どの方式で認められるか。実際の運用はその方式に合っているか。

    条項と運用が食い違うと、メールでの変更が後から否定されるおそれがある。

  4. 見積書・仕様書・提案書は、契約の内容か、参考資料か。

    契約の内容とするなら別紙に付ける。参考資料なら、そのことを確認しておく。

  5. 契約書と覚書の優先関係が、どちらかに書かれているか。

    書かれていないと、食い違いの読み方が分かれる。

完全合意条項が働きにくい場面、置かないほうがよい場面

完全合意条項は、すべての契約で役に立つわけではありません。働きにくい場面と、置き方に注意が必要な場面があります。

消費者との契約

事業者と消費者との契約では、消費者契約法が適用されます。同法10条は、法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し、または消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法1条2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする、と定めます。口頭で受けた説明を一切排除し、契約書に載っていない約束を主張できなくする条項は、消費者に不利に働きやすく、個別の事情によっては、この規定の点検の対象になります。消費者との契約で完全合意条項を置く場合は、条項の文言と、事業者側の説明の実態を併せて確認します。

約款による契約

民法548条の2第2項は、定型約款の個別の条項のうち、相手方の権利を制限し、または義務を加重する条項であって、その定型取引の態様およびその実情ならびに取引上の社会通念に照らして民法1条2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす、と定めます。約款の中に完全合意条項を置く場合も、この規定の観点から点検されます。また、定型約款の変更には、民法548条の4が定める要件と周知の手続があり、約款の変更の場面では、個別の覚書とは別の考え方になります。

契約書の外にある書面を、契約の内容として扱いたいとき

事業の実態として、契約書は枠組みだけを定め、細かい条件はウェブ上の資料や運用マニュアルに書かれている、という取引があります。この場合、完全合意条項を置くと、契約書の外にある資料が契約の内容から外れてしまうおそれがあります。契約書の外の資料を契約の内容とするなら、契約書の中でその資料を特定し、「契約の一部とする」と書いておきます。

継続的な取引で、運用が先に動く場合

取引が始まった後に、運用が先に動いて、契約書と実態が離れていく場合があります。完全合意条項と変更条項を置いていても、実態が契約書とずれていれば、いずれ契約書のほうを実態に合わせる必要が出てきます。実態に合わせるには、変更の覚書を結ぶのが基本です。変更の覚書の項目は、契約書の変更を覚書で行うときの書き方のページで扱います。

起きがちなこと:書面にあることだけが残り、書面にないことは消える

場面別の起きがちなこと

  • 契約前に口頭で約束された納期の目安や追加費用の扱いが契約書に載らないまま署名すると、後から契約の内容として主張しにくくなる。
  • 完全合意条項に「本契約に関する一切の合意」と書かれていると、後で結んだ覚書の効力について、相手から異議が出ることがある。
  • 「変更は署名のある書面による」という条項があるのに、実際は担当者間のメールで変更を重ねていると、後に変更の有効性が争われることがある。
  • 見積書の内容を前提に取引を始めても、見積書が契約書の別紙になっていなければ、完全合意条項によって、見積書の条件が契約の内容から外れる。
  • 契約書と覚書で、完全合意の条項の主語が異なる(「本契約」と「本覚書」)と、どちらが優先するのか分からなくなる。
  • 契約書の外にあるウェブ上の資料に重要な条件が書かれていると、完全合意条項があるため、契約の内容に含まれるのかが不明確になる。
  • 覚書を結んでも、原契約の変更の方式(署名・押印した書面)を満たしていなければ、変更として認められるかが問題になる。

よくあるご質問

完全合意条項があると、契約前に聞いた説明やメールの約束は、すべて無効になりますか?

一般に、契約書に載っていない締結前の約束は、契約の内容として主張しにくくなります。条項は、締結前の合意や交渉を契約の内容としない、という当事者の意思を示すものだからです。ただし、契約の内容は証拠を総合して判断される(民事訴訟法247条)ので、すべての場面で例外なく無効になるとは言えません。重要な約束は、契約書の条項または別紙に入れておくことが堅実です。

契約を結んだ後に覚書を作ると、完全合意条項で無効になりますか?

典型的な完全合意条項は、締結前の合意などを対象にしているため、締結後の覚書の効力を直接に否定するものではありません。ただし、条項が広く書かれていたり、書面による変更の条項と組み合わされていたりすると、方式を満たさない覚書は変更として認められない、という主張が出ることがあります。覚書の中で、原契約との関係と、原契約の変更の方式を踏んでいることを書いておくと、方式の不備の主張を防ぎやすくなります。

「契約の変更は書面による」と書いてある契約で、メールで変更を合意した場合は有効ですか?

契約書の文言と、書面にメールを含むのかの扱いによります。条項が署名または記名押印のある書面を求めているのに、運用はメールで済ませていた場合、変更の有効性が争われるおそれがあります。条項の中で、メールなどの電磁的方法を認めるのか、誰が誰宛に送ったものを有効とするのかを決めておくことが、食い違いを防ぐ方法です。

見積書は、完全合意条項があると契約の内容になりませんか?

見積書は契約を結ぶ前に作られる書面なので、完全合意条項があれば、契約書の別紙として添付するなど、契約の一部として明確にしていない限り、契約の内容から外れると読まれやすくなります。見積書の条件を契約の内容にしたいときは、契約書の別紙に付けるか、契約書の条項に内容を転記してください。

完全合意条項は、消費者との契約にも置けますか?

置くこと自体が直ちに禁じられるわけではありませんが、口頭の説明を一切排除するような広い書き方は、消費者に不利に働きやすく、消費者契約法10条の観点から点検の対象になります。消費者との契約では、条項の文言だけでなく、事業者が行う説明の実態と、重要事項が契約書に書かれているかを併せて確認します。

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本ページは一般的な情報提供です。個別の契約への当てはめは、契約の内容や取引の経緯によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、実務でよく見られる書き方を整理した一般的な例で、特定の取引を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で確認できます。参考: e-Gov法令検索 / 法務省 / 公正取引委員会

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